笠井整骨院 (メディカル・ハイドロバッグ研究所)
院長 笠井 浩一
股関節骨頭の変位タイプ分類と膝関節への影響 [Vol.29]
1. はじめに
股関節の状態が坐骨神経痛症状にどのような影響を及ぼすのかを理解するために、まず股関節骨頭の変位パターンを整理し、それぞれが骨盤の異常や膝関節にどのような影響を及ぼすのかを順を追って解説する。
2. 股関節骨頭の3つの変位パターン
- 正常パターン:臼蓋と骨頭の接点が適正な位置にある状態。
- Hip-A:骨頭が前方に変位し、大腿骨軸が外旋するタイプ。
- Hip-P:骨頭が後方に変位し、大腿骨軸が内旋するタイプ。
図1:股関節骨頭の変位パターン(正常/Hip-A/Hip-P)
3. 骨頭変位が起こるメカニズム
3-1. Hip-Aが生じる場合(骨頭の前方変位)
腸骨が前上方に強く引き上げられると、臼蓋と骨頭の接点は下方へ引き下げられる。その結果、接点から大腿骨軸までの距離が大きくなり、大腿骨骨頭は前方へ振られてHip-Aの状態になる(図中の赤点)。
3-2. Hip-Pが生じる場合(骨頭の後方変位)
腸骨が後下方、もしくは下方に引き下げられると、臼蓋と骨頭の接点は上方へ移動する(図中の青点)。この状態では接点から大腿骨軸までの距離が短くなり、骨頭は後方へ振られることになる。
4. 前提知識:脛骨の形状と膝関節の回旋運動
股関節の内外旋が膝関節にどのような影響を与えるかを説明する前に、脛骨の形状を確認しておく。
- 関節面の非対称性:顆間隆起によって分けられた関節面は、内側の方が高さも面積も広く、前方に隆起部がある。一方、外側の関節面には後方に隆起がある。
- 示唆される機能:膝関節伸展時には大腿骨が内旋し前方で運動が停止すること(膝関節内側に支持支点がある)、屈曲時には支点が外側に移動して後方で運動が停止することを示唆している。
- 屈伸と回旋の連動:膝は単純な蝶番関節として屈伸するのではなく、屈曲伸展運動には回旋が伴う。大腿骨の内旋により伸展、外旋により屈曲が生じる。
以上を踏まえ、大腿骨が過剰に外旋・内旋した場合に膝関節へどのような影響を与えるのかを次章で検討する。
5. Hip-A(大腿骨外旋)が膝関節に与える影響
AS、EX、AStによって発生するHip-Aでは、大腿骨の外旋により内果は脛骨に対して前方へ、外果は後方へ移動する。
図2:Hip-Aにおける内果・外果の移動
このことから、AS系で生じるHip-Aは大腿骨の外旋を誘発し、屈曲膝傾向を示すことになる。
ただし、T軸損傷も非荷重要素ではあるがHip-Pとなり、外反膝・内反膝で逃げることがある。これに加えて非荷重傾向の場合、下肢後面の筋群が過緊張を起こすことも屈曲膝を招く要因である。
このような膝関節の捻れは、後十字靱帯損傷を誘発する。
図3:大腿骨外旋と脛骨の関係
6. Hip-P(大腿骨内旋)が膝関節に与える影響
Hip-Pは、外傷性角加速度損傷PIt、もしくはT軸損傷によって誘発される。
PItによるHip-Pでは大腿骨内果が後方へ、外果が前方へ移動する。このことから膝関節は過伸展を起こし、反張膝を呈する。
図4:PItによるHip-Pと反張膝
7. まとめ:Hip-AとHip-Pの比較
| 項目 | Hip-A(骨頭前方変位) | Hip-P(骨頭後方変位) |
| 腸骨の動き | 前上方へ引き上げられる | 後下方または下方へ引き下げられる |
| 臼蓋と骨頭の接点 | 下方へ移動(接点〜大腿骨軸の距離が拡大) | 上方へ移動(接点〜大腿骨軸の距離が短縮) |
| 大腿骨の回旋 | 外旋 | 内旋 |
| 主な誘発要因 | AS、EX、ASt | 外傷性角加速度損傷 PIt、またはT軸損傷 |
| 果部の移動 | 内果:前方へ/外果:後方へ | (PIt)内果:後方へ/外果:前方へ |
| 膝関節への影響 | 屈曲膝傾向。下肢後面筋群の過緊張も要因 (T軸損傷ではHip-Pとなり外反・内反膝で逃げる場合あり) | 過伸展・反張膝(Tでは非荷重のため反張が目立たず外反/内反膝になりやすい) |
| 靱帯損傷リスク | 後十字靱帯損傷 | 前十字靱帯の緊張・損傷 |
閲覧者数 36