笠井整骨院 (メディカル・ハイドロバッグ研究所)
院長 笠井 浩一

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【頚胸移行部】

今回からは頚胸移行部についてお話します。

頚胸移行部とは、C7/Th1間の関節で頸椎の前弯から胸椎後弯に移行する部分で有り、腕神経叢は胸郭出口付近でほぼ一束にまとまり上腕へ下降します。

動静脈もこの部分で分岐、上肢へと伸びていきます。

これは頸部運動による牽引応力を避けるための構造で有ると考えられています。

頚胸移行部は機構的に平衡を取り左右歩行の水平を保ちます。

しかし、骨盤、股関節と肩関節の影響、外傷、姿勢の不良による外力等により左右のバランスを崩すことが有ります。

この部分の左右バランスが壊れると、前述した腕神経叢や鎖骨下動脈に牽引力が働くことになります。

図は左側のレバーアームが大きくなった図です。

頚胸移行部の異常は頸部、背上部、肩、上肢に大きな影響を与えます。

先生方も体験されていると思いますが、肘周辺の関節、手部関節の損傷が同程度であっても症状に大きな違いあることが有ります。

片方は、あまり痛みを伴わないのに、もう一方は強い痛みや夜間痛を伴います。

この違いを私は頚胸移行部の損傷の程度に相関していると考えています。

癒合性の五十肩、インピンジメント、腱板断裂、手の痺れ、上肢の痛み、夜間痛を伴うケルバン病や肘の上顆炎など多くの障害にかかわっています。

また頚胸移行部は上位頸椎の損壊にも大きく影響しますので。

頸部と上肢の施術には、この部分の正確な判定と整復は欠かせません。

今回は、ハイドロバッグを使用して頚胸移行部の異常を見抜き整復する方法そのメカニズムについて解説していきます。

まずこの部分の損傷は、

1頚胸移行部鈎状突起支点性レバーアームR-be(髄核性)

2頚胸移行部第一肋骨支点性レバーアーム(後上方浮上型)

3頚胸移行部第一肋骨支点性レバーアーム(前下方沈下型)

の三種類に分かれます。

まず1の頚胸移行部鈎状突起支点性レバーアーム(以下髄核性レバーアームと表現)から説明していきます。

 

頸椎右側屈時に棘突起が左側に移動する順連動捻れを起こします。それに対して胸椎右側時に、右方向に棘突起が移動する逆連動捻じれを起こします。

胸椎も椎体運動では順連動捻じれを起こすのですが、椎体が肋骨頭を押し胸骨を介して反対側の肋骨へ力が伝達する反動トルクによって逆連動捻じれを起こします。

このようにこの部分では逆方向の回旋が存在することになります。

それでも通常、平行は保たれていますが、何かの要因(荷重の偏心、外力等)が働いたときには髄核は生理的範囲を逸脱してレバーアーム現象を発生させます。

では、髄核性レバーアームR-be型(右への側屈が阻害され、症状が左側に出現する)を例にとって解説をします。

図をご覧ください。

髄核は生理的範囲を逸脱して左後方へ移動し、椎体は時計回りに回旋しつつ左側が浮上します。

左に髄核が移動しているわけですから、髄核を運動の中心として考えるならばアーム比は右のほうが大きくなります。腰仙移行部で髄核が左方向へ偏移した場合L-be(左への側屈が阻害される)になります。

しかし頚胸移行部第一胸椎の側方後部には鈎状突起が存在しています。

第7頸椎の時計周りの回旋と第一胸椎の反時計回りの回旋、そして髄核の左方移動による傾きによってこの部分に新たな支点を作ることになります。

髄核でできる支点よりさらに外側、後方に支点ができるわけですから大きなレバーアームが働き、牽引力によって左側の頸部、背上部、上肢が障害されます。

さて、これをどのように判定するかですが、側屈によってレバーアーム現象を引き出して左右の張力の差や、視診で判定する方法が有ります。

レバーアーム現象発生側は、健側に比して大きくなだらかカーブを描き引き延ばされる感覚(テンション)が発生します。

しかし側屈で判定する方法は頸椎の回旋運動や、頭部の回旋、側屈が介入することでその張力の発生や見え方が大きく変わり単純な方法だけに、正確にテストをしてレバーアーム現象を引き出すはかなりの熟練が必要です。

しかも、側屈テストを他動で行う場合、力のかけすぎや、かける方向を誤ればテストが原因で新たな損傷を作ってしまいます。

また、可動域の小さくなっている中高年はレバーアーム現象が引き出しにくく、疼痛や痺れが有れば疼痛回避動作が入りますのでこの方法で判断するのは困難です。

では、ハイドロバッグを使用してどのように判定するのでしょうか

まずはハイドロバッグ使用時の特性として。

1、軟組織下の硬組織に容易に触れること。

2、押圧すると潤滑されている関節は圧力が抜ける感覚があり、潤滑不全側は、硬質感があること。

3、硬組織の動きをより大きく感じること。

の三つがあげられます。これは押圧した際に対象硬組織にあたった反射波を板で捉えることで感覚が増幅されると考えられます。(爪と同じ作用)

この特性を生かし押圧してみると次のことが観察された。

1 静止時、第7頚椎、第1胸椎椎間関節直上を押圧すると、左側椎間関節の浮上が確認でき、更に押圧すると、左椎間関節が沈下した。

頚胸移行部第1肋骨支点性レバーアーム(浮上型)R-Be でも左椎間関節の浮上は観察できたが押圧しても沈下は観察できず、剛性を感じた。

2 頚椎屈曲位から伸展位に運動させると、左側の椎間関節が大きく浮上することが観察できた。

3 頚椎を健側、右側への回旋時には右側の椎間関節の浮上は運動の最後に僅かにみられたが、左側に回旋したときに運動の早期に左側椎間関節が大きく浮上することが観察できた。

これらは、押圧や運動による椎間板内圧力の変動に対して髄核がどのように動くかを感じ取っているわけで、髄核性レバーアーム現象の正確な判定に役立ちます。

次回、髄核性レバーアーム時の状態の正確な判断と、頚胸移行部第一肋骨支点性レバーアームとの鑑別、整復法について解説します。

参考文献

構造医学の原理 吉田観持著 エンタプライズ社

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