第8回 脊椎バイオメカニクス
歩行時における腰椎の生理的構造は歩行周期のいずれかで異なりますが、いずれにしましても正常であれば左右交互かつ連続的で彎曲を変化さています。
片足立ちの時の脊椎の彎曲は立脚中期の彎曲と近似でき、左右彎曲を連続的に変化させていると推測できます。
(オステオパシー 仙骨の診断から抜粋)
この腰椎の運動から、腰椎5番の不思議な偏移について、少しだけ語らせて頂きます。結論は申しませんがそれぞれ思考してみてください。
ヒントになれば、なによりです。
それでは、前回の腰椎の考え方を一読してください。
脊椎全体を診て、一体どこが偏移を起こしやすい部位といえるのでしょうか?
私はこう考えます。
1、質量の差が大きい部位
2、生理運動の差が大きい部位
3、彎曲の頂点
質量の差が大きい部位とは、頭蓋骨と上部頸椎、骨盤と腰椎4番5番ということになるでしょう。
生理運動の差が大きい部位とは、回旋運動に対応している胸椎と回旋運動に対応していない腰椎の間、すなわち胸腰移行部、がっちりとした胸郭で安定度を得ている上部胸椎と頸椎の間、すなわち頸胸移行部ということになるでしょう。
彎曲の頂点という考え方は、例えば右凸の弧があり、その下に連続した左凸の弧があると想像してみてください。
竹ひごをグーッと曲げて見られるのもいいかと思います。
腰椎が左凸で胸椎が右凸としますと、胸椎は重力の作用でもっともっと右凸を作りたい力が常に働いています。
そして胸椎はひと固まりの物体として腰椎に乗りかかることにより、胸腰移行部に偏移点ができ側屈偏移が生じ胸椎の彎曲の頂点も偏移が生じるという考え方です。
要するに、内臓系を考慮しない脊椎偏移は、概ね決まった部位が偏移を起こしやすいと言えます。
腰椎の主な運動は、軸方向の圧迫、軸方向の伸展、屈曲、伸展、回旋、側屈、側方であり水平面移動である回旋、側方は純粋な運動として起こりません。
腰椎の関節面は矢状面状に近く、矢状面状の奥には前額面状の関節面も存在するという形状上、屈曲、伸展運動に適しており、今回は屈曲運動について思考してみましょう。
環軸関節では歯突起を環椎前弓と環椎横靭帯で挟み込み歯突起を軸として回旋を許し(上図右側)外側環軸関節での大きな動きを許容しています。
2.歯突起と後頭骨を、歯尖靭帯(離開の制限)、翼状靭帯(前方移動・側方移動・回旋の制限)により結合し、頭蓋と環椎軸椎の安定を獲得しているのがわかります。
すなわち、上部頸椎と頭蓋骨の安定性は後頭骨と軸椎間の安定機構に大きく起因することがわかります。
(カパンディー関節生理学 脊椎編より)
腰椎全体としての屈曲・伸展可動域は年齢により差がありますが、屈曲40°伸展30°程度が代表的な数字です。
また上図から、35歳~49歳の年齢層では、腰椎4,5間が最も屈曲可動域が大きくなっています。
これは腰椎椎間板ヘルニア多発地帯と同部位で、屈曲動作が腰椎椎間板ヘルニアへの影響が伺えます。
今度は分節屈曲・伸展運動についてまとめてみましょう。
(カパンディー関節生理学 脊椎編より)
1.屈曲運動 ①椎間関節は開き、接触面積減少
②髄核後方圧
③黄色靭帯、棘間靭帯伸長
2.伸展運動 ①椎間関節は閉じ、接触面積増加し安定位
②髄核前方圧
③前縦靭帯伸長
髄核の移動に着目しますと、後方移動しやすく、前方移動しにくいのです。これは線維輪の前後の構造上の違いがあり、後方は弱い線維構造となっているのです。(詳しくは生化学の領域です)
要するに、前かがみで体幹を屈曲すると、髄核は後方圧移動しやすく、体幹を伸展すると、髄核前方圧移動しにくいと考えられているのです。
次に腸腰靭帯について思考してみましょう。
(カパンディー関節生理学 脊椎編より)
(カパンディー関節生理学 脊椎編より)
仙骨を矢状面で観察しますと、自然位に前下方に傾斜し、立位での仙骨の水平面に対する角度は約40°といわれています。
標準的な40°の腰仙角では、L5S1連結部における前方剪断力は、上半身の体重の64%に相当します。
この剪断力に対抗し、腰仙関節椎間関節の矢状面状に対する前額面状の要素増大という骨性抵抗と腸腰靭帯による下部腰椎と骨盤の強い連結により、安定化されています。
さてここで腰椎5番の偏移について語らせて頂きます。
(カパンディー関節生理学 脊椎編より)
(マニュアルメディスンの原理から抜粋)
さて、これが偏移を思考するうえで、重要な理論となります。
しかし
腰椎5番だけは、この法則にあてはまらないことがよくあるのです。
何故か?
どうか、思考してみてください!