☆スペシャルインタビュー

☆2部リーグのクラブがカップ戦の頂点に立つ!

ヴァンフォーレ甲府が今季「天皇杯」を制覇!!

日本サッカー界で「三冠」と称され、メジャータイトルの内の一つである「天皇杯」を今季制したのは、ヴァンフォーレ甲府であった。 (今季のヴァンフォーレ甲府はJ2で18位)。

「天皇杯」はトーナメント戦のため、コンサドーレ札幌(2-1)、サガン鳥栖(3-1)、アビスバ福岡(延長戦2-1)、鹿島アントラーズ(1-0)といずれもJ1勢を下しての決勝進出を果たし、決戦で対戦したサンフレッチェ広島(現在J1で3位)を制し頂点に立った。

ヴァンフォーレ甲府で21年ATを務める朝比奈茂氏に喜びの声をお聞きした。

―天皇杯を制するのは、画期的なことと思いますが、その勝因のポイントは何だと思われていますか?

 そうですね。リーグ戦は7連敗しましたが、「天皇杯」では、J1に5回勝ちました。最後はサンフレッチェ広島に勝って、優勝しました。結局リーグ戦の時のヴァンフォーレ甲府のメンバーと天皇杯の時のメンバーは殆ど変わっていません。

では、何故リーグ戦で7連敗していたにも関わらず、天皇杯で優勝することができたのか?この違いは何かということを、少し考えてみました。

先ず、その違いは、天皇杯はトーナメント戦なので負けたら終わりです。リーグ戦は次があるということもありますが、天皇杯は一発勝負です。つまり、同じメンバーですが、そういうところの意識は選手にとって多分違うのかなと思いました。

もう1つは、これは少しサッカーとずれるかもしれませんが、人間というのは「相手によってコントロールされる一面もある」と思っています。自分の能力が仮に100だとしたら、能力を超えて120出すことができるか、若しくは能力以下の70しか出すことができないか、実は相手によって決まるということを経験上感じています。

本来であればどんな相手でも、常に100の能力を出せれば良い訳ですが、相手が70くらいのレベルでは70しか出さない。つまり、相手に合わせてプレーしてしまう。しかし、120の相手だったら20くらいは能力を超えて120は発揮できてしまう、これが今回の結果です。つまり今回勝利したポイントは天皇杯という、負けると後がない、一発勝負(トーナメント方式)であったこと、また相手がJ1という格上のチームが相手だったことが、前述した本来持っている能力以上の力を発揮でき、勝つことができたと考えます。

とはいえ、明らかにレベルが違えば、いくら能力を超えると言っても、限界があります。全体から言えばJ2のレベルとJ1のレベルは違います。しかし今回のメンバーは持っている能力も高かった上、その能力を十分発揮できたことが勝利を生んだと思います。

少し違った角度からお話ししますと、私は一般学生を対象とした体育の授業でバスケットボールを行うことがあります。その中でドリブル技術の向上を目的に2人組になって練習する場面があります。1人はドリブルをしながらボールをキープする、もう1人は相手のドリブルを阻止しボールを奪いに行くといった練習です。

この練習では、相手が積極的にボールを奪いに行かなければ、ドリブルしている学生は、永遠にボールをキープすることが出来ます。その逆にボールを奪う学生が激しく身体をぶつけ合い、真剣に奪いに行けば、ボールをキープする学生は、それ以上に身体の向きを変え、ドリブルに変化を与え、奪われないように工夫をします。

その繰り返しでドリブル技術が向上し、結果としてボールを奪われることが少なくなります。つまるところ、自身のドリブルの技術を上げるのは、本人の努力は勿論のこと、相手次第でもあります。だから普段からレベルの高い集団の中で練習をすることが自身のレベルを高くできると考えます。

このことは、最近の日本人サッカー選手は外国でプレーをする機会を多く目にします。それは、自分のレベルを高めるために行くのでしょう。「別に国内でも良いじゃない?」と思われる人もいらっしゃると思いますが、悲しいかな、サッカーは日本よりもヨーロッパの方が全体的に高レベルです。

世界からトップ選手が集まってきます。日本で沢山お金をもらって、日本の中でやったとしてもその人は、所詮日本の中のレベルで終わってしまいます。あえてレベルの高いチームに飛び込んで、苦労してレギュラーを獲得することで、以前の自分より技術的、精神的成長が高まることは自明であります。やはり環境は大切だと私は常々感じております。

それについてはサッカーだけに限らず、野球でもその他のスポーツでも同じたと考えます。そればかりか、音楽や絵画などの芸術分野や、学問や研究分野など、この世にある全ての分野にあてはまると思います。緩くぬるま湯に浸かっているような環境で過ごせば、苦労もせず、楽で心地良いかも知れませんが、そこからの成長はありません。一方でその逆を経験することで、無限の成長(可能性)が見込まれます。

ヴァンフォーレ甲府でいうと、選手たちは高い能力を持っています。高い能力を持っていなければ、偶然では天皇杯の優勝は出来ません。その持っている能力を十二分に引き出してくれたのが今回のJ1チームだったと考えています。

しかし、本来は相手によって、出せる能力が異なるのでは、プロフェッショナルではありません。ですので、J2で18位という結果は、選手、スタッフがしっかりと受け止めて、来シーズンに臨むべきだと考えます。

そのためには、普段のトレーニングでは全員が100の力を発揮し、特に対人練習ではディフェンスになる選手が積極的に相手を止めることで、オフェンスの能力が向上する、そのオフェンスを阻止するためにディフェンスの能力が上がる、といった相乗効果で臨むべきだと思っております。そのためにアスレティックトレーナーが関わることも多々あります。来シーズンのヴァンフォーレ甲府をこれまで以上に応援してください。

―頂点に立つことが出来た要因として他にも挙げられるポイントはありますか?

 もう1つのポイントとして挙げられることは、今回は不安の解消と適度な緊張感および満足感が上手にコントロールできていたと考えます。

 満足感で言えば、これは普段のリーグ戦中でも同じですが、アウェイの試合の前日はホテルに泊まります。そこで提供される食事はビュッフェ形式で、その内容もすごく豪華なものとなります。選手は好みも、その時の体調も全員が異なります。当然と言えば当然です。

ですので、食事内容もそれに合わせるだけのものでなければなりません。食べたいものが食べられないことほど、不平不満につながるものはありません。例えば戦時中、出征の前夜に好きなものをお腹いっぱい食べさせるような、そんな感じです。それにより、選手は満足感を得て、不安や緊張を解くことができる、要するに、食事の内容が不安を取り除いているのだと思います。

従って、「あれを食べろ、これは食べてはいけない」とは決して言いません。選手が相談してきたら「今食べたいのは何かな?それを好きなだけ食べれば良いよ」と伝えます。それがスポーツ栄養学に叶っていなくても構いません。選手自らが自身の身体に問い合わせて食べれば良いと考えております。

人によって選ぶメニューが違うのは好みもありますが、その時に身体が求めているもの(その人に足りないもの)を直感的に選ぶものだと考えています。試合前には科学的な理論よりも人間らしい態度で接する方が良いと感じております。

その選手の心身と一体化して精神的に寄り添う姿勢が重要であり、それが肉体的に影響を及ぼすと考えます。その意味でも食事は重要なファクターとなると考えています。

左から、飯島陸選手、筆者、関口正大選手、長谷川元希選手、平井拓トレーナー(全て法政大学出身者)

天皇杯優勝カップ

―アスレチックトレーナーの役割で試合前に重きをおいていることは?

 個人的には、普段のトレーニングと試合は、別ものだと考えています。ですので、試合当日にはドクターを含め普段とは違うスタップ体制で臨むこともあります。選手には全てを試合に集中して欲しいし、その環境をトレーナーも作るべきだと考えます。

その一つに、普段は自己で管理していることでも、試合時ではトレーナーに頼んでも良い(ある意味、試合時には甘えても良い)と思っています。とにかく試合のことだけに集中できるように。

例えば、選手が「あれが欲しいです」「これをしてください」と言えは、普段は自分で行なっていること(行うべきこと)でも、試合時では選手の要望を受け入れるように動いています。

このように考える根底には「人は借りたものはしっかりと返す」の繰り返しで生活が成り立っていると考えています。決して一人で完結することはないし、しなくても良い、皆が支え合って生きるべきだと思っています。だから借りたものが大きいほど、返す力も大きくなると、それでバランスを保っています。

私はトレーナーとして何ができるかと言えば、自分の技術を与える(貸す)ことしかできません。なので、選手には、普段から沢山のもの(技術や知識や安心感など)を与え(貸し)て、試合で勝利することで返してもらいたいと思っております(笑)。

―プロのアスリートに対して、アスレチックトレーナーとして気づくことがあれば・・・

 選手は全員が年下です。役割は違いますがお互いにプロとして仕事をしています。選手には選手の役割(サッカーをすること)があり、トレーナーにはトレーナーとしての役割があります。そこには、年齢は関係ないといつも考えています。

ですので、いくら自分が年上だからと言って上から目線でアドバイスをしたり、話しをしたりしたことは一度もありません。もし、強く言うことがあるとしたら、選手が役割を果たしていない時だと思います。

トレーナーとして一番大事なことは、技術云々の前に、選手としっかり信頼関係を築くことが大事だと考えます。そのために前提条件(考え方)を一緒にすることが重要です。

いくら正統論であったとしても、前提となる考え方が違えば受け入れてもらえません。これは多くの時間を過ごせば共有できるものではありません。何年一緒にいても変わらないことも多々あります。

まず相手が何を一番大事にしているのか、サッカー以外の日常生活からも情報を得て、目指す方向を根底から一致させることが重要であると考えています。

―メジャーリーグの大谷翔平選手などを見ていると個人的なトレーニングを凄くやられていると思いますが、やはりサッカー選手も同じように凄いトレーニングをされているのでしょうか?

 個人的なトレーニングを行うことについては、もうそれは大前提です。個人的なトレーニングを行わない人は、プロの世界には居ることは出来ませんし、事実いません。1、2年で終わってしまいます。

個々で行なっているトレーニングは、それぞれ特長があります。特にサッカー選手の場合、同じポジションに2人か3人いますし、キーパーであれば4人はいます。その4人でもプレーの特徴も異なります。足りない部分を補うトレーニングは勿論ですが、やはり自分の特徴を伸ばすトレーニングを普段から地道に取り組んでいるように感じます。

例えば、足が速い選手はさらに早く走れるように、ドリブルが得意な選手はさらにキレを出すために努力しています。少し視点はずれますが、コンディショニングについても人それぞれです。例えば疲労が溜まっている選手、体のどこかに怪我を抱えている選手、年齢が高くベテランの選手などは、体調に合わせて自分で調整しています。

練習では、若くてもベテランでも関係なく監督が意図する内容を行うので、それぞれがベストな状態で臨まなければ結果は明らかです。そのために個人的なトレーニングやコンディショニングを行なっているのだと考えます。

―全体的な練習の時にも、個人的なトレーニングの時にもトレーナーの方は付き添うのでしょうか?

 パーソナルトレーナーという形でチームトレーナーがいる訳ではありません。基本的には私たちが行う内容は結構分担されています。例えば強化や補強のトレーニングは、フィジカルコーチが行うし、リハビリ的なところはフィジオセラピスト(PT)が担当します。

トレーナーとしては、外傷や障害の予防やコンディショニングとしての対応などは行います。例えば、筋肉の張りを訴えてきた選手には、練習前に物療機器や手技により改善し、怪我の予防に心がけます。

また練習の後にも明日に備えてケアも行います。ただ、前述した通り、パーソナルトレーナーではないので、一人の選手に偏らず全体のバランスをみて選手に接しています。その辺りは、選手も理解しているので、円滑に行えている要因の一つだと思います。

―21年もヴァンフォーレ甲府のATをされてきたので今回のことは特別なお気持ちがあったのではないでしょうか?

 そういう意味では冷めているかもしれないのですが、今まで行ってきた試合の全部が同じくらいの感じでした。優勝は嬉しかったです。しかしそれ以上に今回も無事に試合が終わった、自分は全力で取り組んだという感じが強かったです。

選手は「天皇杯」で優勝したことが、キャリアアップにつながることもありますし、実際に今回も注目されている選手もいます。しかしながら我々は優勝したからといって、仕事として日本代表に選ばれる訳でもありませんし、そのためにやっているのではありません。

普段から彼ら(選手)の夢をよく理解していますので、彼らが勝つことに対して多少なりと貢献できたかなって感じています。それが凄く嬉しく感じました。天皇杯であろうがリーグ戦であろうが、やることは全く同じです。

私がトレーナーを目指した一つの理由に、「何かスポーツ現場に貢献したい」ということがあります。それが今回達成できた!とはっきりと思うことができました。

これからも、できる限り現場でその役割をしっかり果たしていくことを誓った優勝でもありました。

(文責・編集部)

朝比奈 茂 氏 プロフィール

1969年、山梨県生まれ

山梨県立富士河口湖高校卒業
順天堂大学体育学部健康学科卒業
呉竹学園東京医療専門学校卒業

取得資格:鍼灸あマ指師、柔道整復師、日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー、全米ヨガアライアンスRYT500、博士(医学)

トレーナー歴:2009年ユニバーシアード(ベオグラード)大会男子サッカーチームトレーナー、法政大学サッカー部トレーナー、J2ヴァンフォー レ甲府トレーナー

専門分野:補完代替医療学、ヨーガ、 アスレティッ クトレーニング学

趣味:ヨーガ、ウォーキング。

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