【関節の転位と外力】
では、なぜ潤滑の不全や、生理的な運動機能軸からの逸脱ということが起きるかということと、その対処法について考えてみたいと思います。
膝関節(大腿骨、脛骨間)を例にして考えてみたいと思います。
もし、正常状態の二骨(大腿骨、脛骨間)に不整な外力がかからなければ、二骨の位置関係は変わることは有りません
【ニュートンの法則第一法則、静止あるいは等速度運動中の物体は外力が加わらないかぎりその状態を続ける(慣性の法則)】
正常の範囲内での運動が保たれる場合、関節には生理的運動軸を保つ機構が存在しますので、異常は起きません。
しかしながら、何らかの不整な力が関節に作用し、運動機能軸保持機構の限界を超えたなら二骨間には微細な転位が生じることになります。
その転位の方向は前後軸(X軸)方向、左右軸方向(Y軸)、上下軸方向(Z軸)の離開、捻転、軸傾斜などが考えられ、単一の転位ではなく多くはその複合であると考えられます。
不測の事態で膝関節に直接大きな力が作用し関節間の転位が起こる以外にも、普通に歩行していても足関節の転位による下腿軸の傾斜があれば脛骨、大腿骨間に曲げの力が作用することになります。
また、股関節に異常があり大腿骨軸が内旋傾向にあれば大腿の過内旋による膝関節過伸展や屈曲阻害の力が作用することになりますし、大腿骨が外旋傾向になれば膝関節屈曲傾向、伸展阻害の応力が膝関節に作用することになり関節相互体の微小転位につながります。
このように、関節のアラインメントの一部が崩れても、関節の生理的機能軸を逸脱する力が作用することになります。
次に作用する外力の種類について考えてみたいと思います。
今度は足関節の内反捻挫を例に考えます。
1、歩行中に段差で捻挫、スポーツ中ジャンプの着地に失敗して捻挫といった大きな外力が作用する場合。
2、股関節や仙腸関節に異常があり歩行中、接地するときに足部が内旋傾向になり墜下することにより歩行中に持続的に足関節に内反応力が作用して生理的機能軸からの逸脱を起こす場合。(弱い力が反復して作用)
▼異常歩行の動画
3、正座等をしていて足関節に長時間内反、背屈が強制されて運動機能軸から逸脱を起こす場合。(静力学的な持続する力)
1の場合は外力の認識はできますが、2,3についてはむち打ち損傷でもよくあるように外力の作用後、時間をおいて症状が出現することが多いこともあって、患者が外力と症状を結び付けて認識することは難しいようです。
多くの関節障害の本体が、生理的な運動機能軸からの逸脱であると考えると関節相互体の位置の転位を必ずともないます、位置の転位は外力の作用がないとおこり得ません。
以上のことから、自然に発痛や、障害が起こることは無く、必ず何らかの力が作用していることになります。
この関節間の微細な位置の転位を元に戻し、潤滑を再生させ、運動機能軸を復元する行為が関節整復です。
整復を行うにはまず、関節の微細な転位を判定する必要があります。
微細な転位を判定し過剰整復、整復不全を起こさず絶妙の力加減で元の位置に戻し、潤滑と運動機能軸の復元をするわけですから高い技術力と感性が求められます。
このことが、関節整復の再現性を低めて、一般化できない原因の一つであると考えています。
この課題を解決するために、非圧縮性流体圧を応用する方法を考案したのです。
次回は非圧縮性流体圧を使用した整復の理論について解説いたします。