第3回トレーナーという仕事(初級編)
新型コロナウイルスによるスポーツへの規制も、少しずつ緩和し始めました。ゴールデンウィークも世間では10連休もあると言っておりましたが、筆者は2日でした。コロナ前では、ゴールデンウィーク中は遠征や試合、練習などで休みは無いのが当たり前。
忙しい日は午前と午後で違うチームに帯同なんてこともありました。それがコロナ禍になり、しっかり休めてしまう(現場が無い)ようになっておりましたが、今年はなんとか盛り返して来ました。
このまま、順調に以前の社会状況に戻ってくれれば良いのですが・・・。
さて、新型コロナウイルスもだいぶ落ち着いてきたようで、日本赤十字社救急法救急員(以下、日赤救急法と略します)の養成講習会も7月より再開されるとの通達が出ておりました。AT取得のための条件としても必要な資格ですが、数年開催されなかった事もあり、受講希望者が多く受講するまでが大変そうです。
スポーツの現場で生命に関わるようなトラブルが起こった際、対応を期待されるのはトレーナーです。見習いであろうが、学生であろうが『トレーナー』という肩書きでチームについている以上、緊急時にはその役割を果たさなければなりません。
そのためにも、AT取得希望かどうかに関わらず救急処置が行えるような準備は必要ですし、できれば資格を取得すべきでしょう。何か事が起こった際には頭の中はパニックになってしまうと予想されます。頭で理解しているだけですと咄嗟の時に身体を動かすこともできなくなってしまいますので、身体に憶えこませるように事前の訓練が必要となります。
日赤救急法では、胸骨圧迫・AED・止血法・三角巾・搬送・体位変換などを広く学ぶことができます。まず、日赤救急法を取得し、必要に応じてそれぞれの分野を掘り下げた資格取得にチャレンジされるのが良いのではないでしょうか。
―緊急事態に対する準備―
筆者がトレーナーとして関わっているアメリカンフットボール部では、当たりのある競技ということもあり、ベンチサイドには担架、ネックカラー、松葉杖、シーネなどが常備してあります(写真-1)。
写真-1 搬送グッズなど
トレーナールームに置いておくのでは無く、練習の度にグラウンドに出しています。また、一般的な応急処置グッズだけではなく、ヘルメットやショルダーなどの防具を外す際に必要な特殊工具や電動ドライバーなども準備してあります。グラウンド横のクラブハウス前にはAEDも配備されています(写真-2)。
写真-2 クラブハウスに設置されているAED
特にこれからの季節、外傷対策だけではなく熱中症に対する準備もしておきます。翌日の天気予報を確認し、気温や湿度が高そうな際には選手たちに練習前の水分補給の促しや、睡眠時間の確保などの通達を出します。練習時には熱中症指数計(写真-3)を確認し、その情報を指導者と共有します。
写真-3 熱中症指数計
アメリカンフットボールの場合には、ヘルメットやショルダーを装着していますので暑さ対策については神経質になります。試合時などでは新型コロナウイルスの影響もあり、サイドライン際に立っている際にはヘルメットを着用していなければならず、体熱の放散が間に合いません。そこで、小ぶりのアイスパックを作成して(写真-4)ヘルメットとショルダーの隙間に入れて少しでも熱を奪うことができるようにさせるため、トレーナーは大忙しとなります。
写真-4 氷の準備
ただし、注意しなければならないことがあり、興奮した選手は首筋にアイスパックを入れたままでフィールドに出てしまう場合もあるため、トレーナーは回収も怠らないようにしなければなりません。
当たったことによる頭部や頸部のケガにせよ、重篤な熱中症にせよ、自分たちだけでは対応できない場合も少なくありません。その際には躊躇せず救急車の要請を行う「勇気」が必要です。本当に救急車を呼んでも良いのか分からなければ対応してくれるオペレーターの方に相談すれば良いです。
「きっと大丈夫。大したことではない。」そう思い込みたくなるのも分かりますが、取り返しのつかない事態になる前に、最悪の事態を想定して行動することが大切であると考えています。