指の動きの研究
概要
手の疾患と言っても五十肩や肘の痛み、手首の痛みや、それに伴う首の痛み等々様々なものがあります。
臨床現場でよくある疾患ですが、意外に悩みの種になっていることも多いのではないかと思います。
エビデンス通りにやったが効果がなかった。新しい技術を習ってきてやってみたが効果がなかった。
というようなことはないでしょうか?
以前は、もっと簡単に治せた気がするのに?
という疑問はないでしょうか?
そんな経験がある先生に言えることがあります。それは、以前よりレベルがあがって患者さんの要求が高度になっているからです。術者のレベルがあがると患者さんの層が変わってきます。同じ疾患に見えて実は全く違う問題が原因になっていたりするのです。それに気づく大きなチャンスなのだと思います。
高度な要求になったということは、何が問題なのかを推測する能力が問われている訳です。今まで通りの見方をしていては、何もはじまりません。同じ見方をしていたら同じ結果にしかたどり着けないのは子供が考えてもわかります。そこで一つの指標をご提案させて頂きます。
それは指先です。指先に注目すると面白い現象が見えてきます。指先の見方をちょっと変えれば正常と異常を簡単に短時間で見分けることができるようになってきます。しかも、検査に力や時間を使う必要はありません。特別な用意も必要ありません。
鍼灸には手足の指先に井穴という重要なツボがあります。鍼灸学的に言えば手足の指先は全身にアクセスすることができる窓とも言える存在です。関節の運動という意味から考えても、そこが重要でないはずがありません。しかし、現代は、それを分離して考えてしまいます。今回お話する内容は一般的な解釈とは違って見えるかもわかりませんが、新しい視点なので、頭を切りかえて読んでみてください。新しい視点になるのは間違いありません。
今回は経絡という観点からではなく、末節骨と中節骨の間で形成されるDIP関節の動きに注目し、その動きによって影響されているPIPやMP関節の関連性について注目してみました。指先の問題を解決すると肩関節や肘の痛み、手首の痛みも含めて改善されることも多くなります。もちろん、指先だけで問題を全て解決できると言っている訳ではありません。しかし、この関係性が理解できると、見落とされていた要因の一つがあきらかになってくるはずです。
鍼灸師は関節が苦手という方は多いと思いますが、関節の動きを理解することで、逆に経絡や穴の見え方も違ってきます。経絡は、静的なものではなく、関節の動きによってもダイナミックに変化しています。その様子も伺うことができるようになってきます。その為にも関節の動きをよく観察し、理解することが重要です。
関節の専門家の方も、物理的な構造だけが重要と考えていると落とし穴にはまります。筋肉が収縮するのは、脳からの指令があってこそです。そして、それを決めるのは、その人の意思でもある訳です。その意思に何らかの問題があれば、筋肉の収縮は異常を来たし関節の構造は正常でも動きは異常になったりします。そういう現象は、少ないと考えるのは人間をよく観察していない証拠とも言えます。
鍼灸師でも、それに気づいている人は少ないのかもわかりません。だから関節が苦手という人がいるのではないかと思います。経絡と関節の垣根を取り払う為にも、関節の動きをよく観察し、異常と正常を見極めることができるようになる必要があると私は考えます。そして経絡の意味を更に深く知ることができれば、古人達が残した遺産を現代に活かせるものになるはずです。
ぜひ読んでいただきたいと思います。
ヘバーデン結節
冒頭にも書いたように指先には井穴と言う穴があり、鍼灸では非常に効果の高い穴とされています。指先に異常が出る症状にヘバーデン結節があります。
ヘバーデン結節は指の第1関節が変形し曲がってしまう原因不明の疾患です。母指にも見られることがありますが、ほとんどは第2指、第3指です。赤く腫れ上がったり曲がったりすることもあり、痛みを伴うこともあります。40代以降の女性に多く、腫れて動きも悪くなるので強く握ることができにくくなり、生活も困難になったりします。
原因は不明なので負担をかけないようにするというのが一般的ですが、動かさないと逆に固まって廃用性萎縮を起こし徐々に酷くなる傾向も考えられます。また痛みがなくても握力の低下を招いて、生活が不自由になったりすることもあります。そこで屈曲時のDIP関節の動きをよく観察してみると面白いことに気づきます。指が腫れているというだけではない動きの異常に気づきます。
各指の屈曲時の回旋運動
指関節は蝶番関節であり、一軸性なので回旋運動は起こらないとされています。しかし、指を軽く屈曲し、末節骨の先端を持って回旋させてみると僅かな遊びがあることに気づきます。遊びなので、意識的に動かせるような、あきらかな運動ではありません。しかし、この遊びには、方向性があることに気づきます。
DIP関節は屈曲時に内旋方向に遊びが多く、外旋方向には遊びが少ないという傾向です。それだけではなく、PIP関節は外旋方向に遊びが多く、MP関節は内旋方向に遊びが多くなっています。つまりDIP、PIP、MPは、屈曲時に、それぞれ逆方向に回旋運動の遊びがあるということです。
この傾向から関節の遊びは単独ではなく、隣接する関節と協調して屈曲伸展をしているということがわかります。更にこの遊びは第二~第五のCM関節にも影響し、手根骨にも特定の遊びを作っていることがわかります。この作用によって、腕関節や肘関節、肩関節にも影響しています。肩関節周囲炎のような疾患も手の指の遊びに問題があって夜間痛が酷くなっていることもありますので、指の動きを観察し、それを調整することで夜間痛が楽になる場合もあります。
関節に遊びがある理由は、車のハンドルに遊びがあるのと同じで、遊びがあることで操作を容易にし、力強い動作が可能になると考えられます。この僅かな遊びによって指先を屈曲した時の器用さと力強さを容易に発揮するのではないかと想像しています。
これは絞った雑巾が硬くなる原理とよく似ています。つまり最大筋力にも、この関節の遊びを通して硬く締まった関節を作り出し力強さを発揮している可能性があると考えています。逆に考えれば、この遊びが異常を起こすと筋肉はあっても本来の力を発揮できない状態になると考えられます。