【メディカル・ハイドロバッグの骨盤の損傷】

ここから骨盤の損傷についてお話します。

まずは非荷重離開型損傷AS (Anterior Superior) 前上方離開についてお話いたします。

その前に骨盤の動きについてお話します。

仙腸関節は耳状面おいて関節面の距離を変えることなく緩む、締まるといった動きを繰り返しています。これはネジの動きと類似しており、関節面はねじ山の一部を切り取ったような形状になっています。

右の腸骨は、時計回りに関節が緩み反時計回りに関節が締まる形状になっています。

左の腸骨はその反対に反時計回りに関節が緩み時計回りに関節が締まる形状になっています。

どちらも前上方方向にネジが緩み、後下方方向にネジが締まる形状になっています。

仙腸関節は歩行の時のみならず常に、緩む締まるを繰り返しながら、上半身と下半身の中間にあって絶妙のバランスをとっています。

仙腸関節は脊柱からの上体荷重を一対一の力学的関係で仙腸関節から股関節へ力を伝達しています。

異常がなければ上体からの荷重と股関節からの下肢の反力は力学的につりあっています。

この股関節からの反力が、姿勢の不良、運動不足などの問題から減少した場合、脊柱からの上体荷重と股関節からの反力のバランスが崩れます

そして腸骨と仙骨の間には回転力である偶力が作用します、偶力は腸骨を前上方に転位させます。

つまり仙腸関節耳状面に沿った形で関節が緩む方向に離開したものこれがAS 前上方離開です。

AS(前上方離開)は仙骨に対して腸骨が前上方に離開して、双方の位置関係が固定されます。

立位では腸骨が前方に行くために脊柱からの状態荷重が前方に移動します。

しかしこの状態では脊柱の荷重代償の限界を超えてしまうため、腸骨と仙骨は離開した位置関係を保ったまま後方に回転します。

このため重心は後方化し、腰椎の前弯は弱くなります。

また、股関節への影響はないか、軽度のHip―A(前方股関節、骨頭が前に移動大腿骨軸は外旋)となることがあります。

その他、坐骨結節位置が後方化するために、ハムストリングスの起始の位置が変わりモーメントアームが増大するために、ハムストリングスから下腿三頭筋にかけての筋緊張が強まります。

この筋緊張が、SLRテストの際下肢の挙上時の抵抗や前屈テストのテンションとして現れます

離開が進行してEX(外方引き出し型)になると腰椎の前弯はさらに弱まり、明らかなHip―Aを引き起こします。前腕の減少は円背に繋がりHip―Aは下肢の外旋、膝関節の屈曲へとつながります。

円背を起こしたご老人の姿勢を思い浮かべていただければEXタイプの障害が頭に浮かぶと思います。

ここで注意をしなければいけないのは、ASは仙骨耳状面に対して腸骨耳状面が前上方向に転位している状態で有りますが、立位荷重時ではその関係を維持したまま仙骨腸骨共に後転しているので骨盤後傾を起こしている状態であるということです。

また、ASは内臓機能にも大きな影響を与えることが知られており、左のASにおいては泌尿器系、消化器系を中心とした横隔膜下の臓器の異常、女性の生殖器の問題、下痢低血圧を引き起こすことが知られています。

また、右のASは心臓、肺などの横隔膜上の臓器の異常を引き起こすことが知られています。

下図をご参照ください。

骨盤環の問題は運動器のみならず、内臓にも大きな影響が出ますので安易に手を触れることなく、アプローチには慎重な姿勢が必要です。

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