【メディカル・ハイドロバッグの鑑別、整復法】
前回に続きます。
ここで重要なことは頚胸移行部の状態は、下位の骨盤環と股関節の影響を強く受けているということです。この部分の安定性を得られなくては頚胸移行部の安定も得られません。
肩に症状が発現するまでには、骨盤、股関節にさまざまな損傷が重複して存在しており、損傷を解析、診断し整復することは至難の技といえます。
このことが五十肩の治療を複雑化し、難治性となる原因の一つです。
次にインピンジメントを、引き起こすタイプについて考えてみましょう。
このタイプも障害側に頚胸移行部の損傷があり、股関節の影響からくる鎖骨、肩甲骨のダイヤモンド構造の後方長軸タイプになっています。
では、先程の橈骨神経、腋下神経の障害されるタイプと何が違うのでしょうか?
肩関節におけるインピンジメント症候群は,上肢挙上に際して上腕骨大結節が,肩峰および烏口肩峰靱帯と衝突して起きる種々の症候を指します。
インピンジメント症候群の症例を観察すると、棘上筋が異常に緊張している例と、肩甲骨位置が下外方に引き下げられている例が多いことに気づきます。
ではなぜこのようなことが起きるのでしょうか?
まず着目すべきは肩甲骨位置の異常であると思います。
肩甲骨の安定に働く筋群として、肩甲挙筋、小菱形筋、大菱形筋、前鋸筋があげられます。
肩甲挙筋、小菱形筋、大菱形筋は肩甲背神経の支配を、前鋸筋は長胸神経の支配を受けます。
肩甲背神経はC4、5頸椎の神経根から分岐して後方へ向かい中斜角筋を貫き腕神経叢の後方を下方に進み、肩甲挙筋と菱形筋の下を通り小菱形筋と大菱形筋に分布して終わります。
また、長胸神経もC5,C6,C7頚神経の神経根から分枝して後方へ向かい中斜角筋を貫き腕神経叢の後方を下降して進み、第一肋骨外側縁を超え胸郭の外側で前鋸筋に分布していきます。
共に共通するのは、中斜角筋を貫通するということでしょう、しかし同じ中斜角筋を貫通しているのにも関わらず、肩甲背神経と長胸神経が同時に障害される例は少ないように感じます。
これは、中斜角筋貫通後、肩甲背神経は後方を下降し、長胸神経は前方を下降するために、頚胸移行部レバーアーム現象と、鎖骨、肩甲帯とのダイヤモンド構造の前方、後方長軸が発症の原因と考えるならば、対側は影響を受けにくいことになります。
インピンジメント症候群は、中斜角筋の緊張による肩甲背神経の絞扼が発生原因であると考えています。中斜角筋の緊張は頚胸移行部第一肋骨型の異常で発生しますので頚胸移行部の状態は、第一肋骨型の頚胸移行部異常そして、後方長軸タイプと予測がつきます。(対側の股関節のHip-A)
そして肩甲背神経が絞扼を受け、肩甲挙筋、小菱形筋、大菱形筋が障害を受けることで肩甲骨の下制、外転が誘発されます。
肩甲骨の位置の変化は肩甲上神経の緊張を生み神経絞扼を誘発することになります。
肩甲上神経は第5、第6頸神経から起こり、肩甲舌骨筋の起始に沿って肩甲切痕で肩甲横靭帯の下を通過して(このとき、肩甲上動脈は上を通る)棘上窩に至り棘上筋を支配します、この後肩甲棘基部(棘下切痕)で下肩甲横靱帯の下を通過して棘下窩に入り棘下神経を支配します。
肩甲切痕症候群では、棘上筋、棘下筋の両方の麻痺がおこり、棘下切痕症候群では棘下筋のみの麻痺が現れるとされていますが、このような麻痺を起こさないまでも棘上神経のモーメントアームの増大は棘上筋、棘下筋に大きな影響を与えると考えられます。
これらの異常で棘上筋の過剰緊張がおこれば、骨頭は過剰に肩甲骨関節窩に引き寄せられますから上肢挙上に際して上腕骨大結節が,肩峰および烏口肩峰靱帯と衝突することになります。
更に前段階として、肩甲背神経が中斜角筋部で絞扼されており肩甲挙筋、菱形筋群の異常が誘発されていますから、肩甲骨の動きが不安定になっておりこの要素もインピンジメント症候群を起こす要因として考えられます。
従って、インピンジメント症候群に対しても
施術としては
①骨盤環を整復頚胸移行部の安定を図る
②頚胸移行部異常(第一肋骨型)を整復
③股関節の異常を整復し、肩ダイヤモンド構造の後方長軸を整復
④下位頸椎部の椎間関節の整復
⑤肩甲上腕関節の整復
といった具合に順を追って全身に及ぶアプローチの必要性があります。局所のアプローチだけでは変化は起こらず長期の経過をみることになります。
そして、中高年の円背も悪化を招く要素となり、加齢やオーバーユースの要因が重なると腱板断裂を引き起こすと考えています。