
仙腸関節を含む骨盤の損壊が上位に及ぼす影響
― 基本パターン
ここでは、仙腸関節や骨盤の機能障害が、体幹上位へどのように影響していくのか、その基本的な力学パターンについて説明します。
■ 1. 仙腸関節(SIJ)の非荷重障害から始まる連鎖
まず、仙腸関節 左側に非荷重障害(AS) が発生したとします。
非荷重障害は身体全体へと連鎖するため、その影響は上位へ波及します。
■ 2. B1レベルでの変化
B1レベルでは、影響が出る場合と出ない場合があります。ここでは個体差がみられる部分です。
■ 3. B2レベルの変化(最初に明確な影響が出る部位)
B2では非荷重の影響により、
左右の重力配分に差が生じ、相対的に右側への荷重が増加します。
その結果、絞り幕効果により 髄核が左方向へ偏位 します。
これが頸椎7番へ影響し、
- 右椎体が低位になる
- 鈎状突起関節が支点となる
- レバーアーム現象が発生する
という変化が起こり、結果として R-Be が出現します。
■ 4. 頭頚移行部への影響(逆方向に現れる)
次に影響が出るのは 頭頚移行部(C0–C1) です。
ここは逆方向に異常が生じ、
今回の例では 右側 に問題が発生します。
表現型としては ASR(A or P) で、
- 環椎の前方が上方へ変位
- 右側方変位
- さらに前方または後方へ変位
といった特徴がみられます。
頸椎の中で前方への自由度を持つのは環椎のみであり、
このとき潤滑不全が起こるのは
後頭骨と環椎上関節突起 の間です。
■ 5. C2–C3レベルの異常
次に異常が現れるのは、
軸椎(C2)および頸椎3番の上関節突起 です。
これは RC3-p と表現され、
頸椎3番が 右側方+後方変位 を起こしている状態を指します。
C3上関節突起は開口時に大きく後方へ動く特徴があり、
そのためこの部分の異常は 顎関節症の原因となり、右の開口不全 を引き起こします。
■ 6. 最終的に現れる軸椎(AXLP)の変位
最後に出現するのが 軸椎(C2)の側方・後方変位(AXLP) です。
この際に潤滑不全が起こるのは
軸椎上関節突起と環椎下関節の間 です。
■ 7. ここまでが「基本構造系」の壊れ方
ここまで説明した内容は、
頭蓋・脊柱・骨盤から成る基本構造系 のみで観察される典型的な損傷パターンです。
■ 8. 「運動構造系」が加わるとパターンは逆転する
ここに 肩関節・股関節を含む運動構造系 の影響が加わると、
状況はさらに複雑になります。
運動構造系では、
対側の肩関節と股関節が連動する
(動物の対角線歩行の力学)という特徴があります。
■ 9. 例:左ASに「右股関節損傷」が加わった場合
右股関節の損傷が加わると、
左肩関節の挙上に制限が生じます。
- 右前方股関節損傷 → 左肩の後方挙上制限
- 右後方股関節損傷 → 左肩の前方挙上制限
この影響が大きく、
B2での状態は R-Be → L-Be へ反転 します。
さらに、
- 環椎以上の損傷も右 → 左へ反転
- C3の損傷も右 → 左へ反転
- 最後に軸椎の損傷も反転
と、上位の異常の方向性がすべて逆転していきます。
これは、運動構造系で関与する筋の 体積・面積・力が大きく、基本構造系より優先される ためと考えられます。
■ 10. まとめ
脊柱系を中心とする基本構造系の損傷パターンと、
股関節・肩関節が介入する運動構造系のパターンでは、
異常の出現方向が大きく異なることがあります。
そのため臨床では、
「骨盤 → 脊柱」だけでなく
「股関節・肩関節 → 脊柱」
という別の連鎖も同時に評価する必要があります。







