日本医学協会主催の第44回健康指導講習会
2022年10月23日午後1時より池袋芸術劇場で開催
フレイルを予防し免疫力を高めよう!〝身体面と食生活から健康を考える〟をテーマに、日本医学協会主催の第44回健康指導講習会が、2022年10月23日午後1時より池袋芸術劇場で開催されました。
はじめに〝この健康指導講習会には様々な分野の先生方をお呼びして「体」をメインテーマにいろいろな話をしていただいており、今日もお二人の先生に体について異なる視点から話して頂きます〟等、医学協会副会長・富本靖氏が開会の辞を述べた。
第一部は、『身体能力低下の予防をしよう!』~コロナ禍でのテレワークによる運動不足、加齢などによる筋力やバランス能力低下を防ぐために家で出来る簡単トレーニング~と題して、しばた接骨院、デイサービスやわらかい代表、(公社)神奈川県柔道整復師会会員の柴田大輔氏が講演を行った。
柴田氏は、〝接骨院だけではなく、介護施設で機能訓練指導員として利用者さん・入居者さんの健康管理から運動指導を行っています。2020年1月に、本邦で初の感染者が確認されて以来、新型コロナウイルス感染症が拡大しております。感染拡大に伴い、テレワークが普及した為、外出頻度が減少された方が増え、運動不足の方が増えました。
高齢者は感染を恐れて外出頻度が減少したことで筋力低下(サルコペニア)が起こり、転倒による怪我を負う。脊椎・関節の退行性変化が進行して、寝たきりや要介護の状態(ロコモティブシンドローム)になる。身体や認知機能の低下で、健康状態が健常と要介護の中間に位置している状態(フレイル)にあたる人が増加傾向にあります。コロナ禍にあって共通して言えることは筋力の低下であり、身体の能力がどんどん衰えてしまう。
40代から60代の人で運動不足であると直ぐ疲れる、腰が痛い、首が痛い等を言うようになることが多い。高齢になるとフレイル、サルコペニア、ロコモティブシンドロームといわれる状態で「低不活発病」という言葉があるほど、動かなくなることで機能が低下し、痛みが生じるといった状態になります。筋力の低下を予防することと筋力を鍛えることは、実はイコールではない。
先述しましたように私は接骨院の臨床現場と介護現場で、スポーツをされている若い方から、デイサービスに来ないと全く運動をしない高齢の方まで、みさせていただいているので、柔道整復師として家でも出来る簡単な運動を紹介したい〟等、述べた後、「抗重力筋」について解説。
「抗重力筋」とは文字通り重力に抗うための筋肉を示す。人間は重力に抗って頭を天に向けて立ち、背筋を伸ばして2足歩行を行うために重力の抵抗を大きく受けるので、重力に抗うための筋肉は、立つ・歩くという運動のために重要不可欠で、「抗重力筋」は地球の重力に対し、姿勢を保持するために働く筋肉であり、首から足にまで及ぶ。身体の前面・後面に筋線維が張り巡らされており、各部位の筋肉が無意識に収縮(力む)・弛緩(脱力)することで、人間の体のバランスを保っている。
「抗重力筋」の筋力が低下すると、体を真っ直ぐに直立させるバランスが崩れる。筋力で支えきれなくなった体重が関節の負担も増大させ、筋力の緊張が酷く(凝る・張る)なったり、筋肉に痛みが生じたり、増大した関節への負荷が関節痛の原因になるなど、様々な症状が生じる。
代表的な「抗重力筋」は、頚部の筋(胸鎖乳突筋、僧帽筋等)、背部の筋(脊柱起立筋群、広背筋等)、腹部の筋(腹筋群、腸腰筋等)、臀部の筋(大殿筋、大腿二頭筋等)、大腿部の筋(大腿四頭筋、大腿二頭筋等)、下腿部の筋(前脛骨筋、下腿三頭筋等)がある。
「抗重力筋」の役割としては、頚部の筋肉・僧帽筋は、頭蓋骨の後ろから頸椎・12番目の胸椎(背骨)に及び首から肩・肩甲骨に至る大きなひし形の筋肉である。主に首を左右に捻ったり、左右に頭を傾ける、後ろに反らせる等の働きがあり、この筋力が低下すると首を垂れるような姿勢になる。
胸鎖乳突筋は、耳の奥にある突起から胸骨と鎖骨の内側に走行し、首を前に倒す・顎を引く・横に倒す・側方に倒す働きがある。この筋肉が顎を突き出すような姿勢になる。背部の筋肉である脊柱起立筋群・広背筋は、背中の筋肉で、胴体を後ろや側方に反らせる働きがあり、起立時に身体は重力によって胴体が前に倒れようとしてしまう為、前のめりに転倒しないよう筋肉が収縮することで姿勢を保持する。
この筋力が低下してしまうと猫背になる。腹筋群、お腹にある俗にいう「腹筋」は、上半身を前に倒したり、左右に回すという働きがある。座っている時や、立ち姿勢でも体を支えるために重要な役割を担っている。
腸腰筋は、背骨から骨盤内を貫通して足の付け根に走る筋肉で、骨盤を立てたり、股関節を深く曲げる働きがある。腹筋群・腸腰筋共に、筋力が低下すると腰痛になる可能性が高い。
臀部の筋肉には大殿筋・大腿二頭筋というお尻から太ももに存在する筋肉があり、立っている時に、足を後方に持ち上げる働きがある。骨盤の安定保持のために重要な働きを担うため、筋力低下により腰痛を引き起こすことがある。
大腿部の筋肉には大腿四頭筋という太ももの前面にある筋肉で、股関節を曲げ膝関節を伸ばす働きがある。立つ・歩くという動作で常に体を支えるため、人体で最も筋力が強いと言われている。
この筋力が低下すると、立ち上がる時や歩く時に、ふらついたり、体重が支えきれずに股関節や膝関節に痛みが生じやすくなる。下腿部の筋肉には、前脛骨筋という俗に「弁慶の泣き所」といわれる脛にある筋肉で、足首を反らせる(爪先を上に向ける)働きがある。足の裏が地面に着く時に、踵から接地するためには欠かせない筋肉である。この筋力が低下すると、爪先が持ち上がらず足裏が地にひっかかって躓くことで転倒が増える。
下腿部の筋肉は、下腿三頭筋、俗にいう「ふくらはぎ」にある筋肉で膝関節を曲げたり、足関節で地面を蹴る働きがある。歩く時に、身体が前傾姿勢になりすぎないよう姿勢を保持する働きを担っている。筋力低下によって、歩く時に体を前に進めることが億劫になったり、少しの負担で足が攣りやすくなってしまうことがある。
「抗重力筋」の主な働きは、基本的な立ち姿勢で体の重心の位置が乱れないよう補正する働きがある。重心が整っている姿勢が、重力に対し、最も効率的に体を支えられる姿勢で「ニュートラルポジション」と呼ぶ。
ニュートラルとは、「中立・中間」という意味で、姿勢においては「意識して力んではいないが、姿勢を保つための筋肉には自然に力が入っている状態」とも言える。
柴田氏は、〝今回のフレイル、サルコペニアの予防というのは、日常的な健康の維持です。体の前面、後面に筋線維というのが満遍なくあります。
皆さんご存知の腹筋とか、背筋だけではなく、首の筋肉というのは首から背骨までです。この全身にある筋肉が無意識に縮んだり、緩んだりすることで、バランスをとっている。人間の筋肉というのは意識して収縮させることは出来ても、意識して緩めることは出来ない。
無意識に力を入れやすい体を作るというのが抗重力筋のトレーニングにあたいするということで、凄く分かりやすい。筋力を減らすと自ずとバランスが崩れます。筋肉で支えきれなくなった体重というのは、関節への負担が増大するのです。
特に骨盤側から右足、左足で左右に体重が分散するので、膝の関節、足首の関節、股関節とあとは体重が1か所にまとまっている腰というところには物凄く症状が出やすい〟。
〝足首を伸ばすということを行えば、ふくらはぎの筋肉、下腿三頭筋はしっかり収縮します。立っていると体重がかかる分、トレーニングの効果は高いと言われています。デスクワークで、一日中座っているという方は、デスクの下でこれを行うことで、足の動きの予防にもなります。
筋トレは一日でどうにかなるものではありません。種まきをして、3か月位でやっと筋肉が鍛えられると言われています〟等述べた。
この後、実技指導に入り、スタッフが前に出て実技を行い、参加者の姿勢の確認、注意点も指導した。大腿四頭筋トレーニングでは、姿勢よく座って右足を伸ばす。つま先がガニ股になりすぎず、外又になりすぎず、内股になりすぎず、親指が真っすぐ真上を向くように膝を伸ばす。
大腿四頭筋というのは、手で触れられる場所なので、出来れば〝ここに力を入れている〟と意識をするように手で触れる。ここを今から動かしますと意識しながら運動をすると運動神経が刺激されて、トレーニングの効果が増す。
10秒経ったら下ろす。この時にもストーンと下ろすと衝撃で筋肉の線維が損傷してしまうため、「ゆっくり上げる・ゆっくり伸ばす・力を入れた所を保持する」、この3つの要素が凄くトレーニングでは大事等、話した。
「デイサービスやわらかい」機能訓練指導員
左・久保 雄史さん 右・磯﨑 裕一さん
会場から「お風呂の中でも良いのでしょうか?」の質問があり、〝お風呂の中では、浮力が発生するので、トレーニングの効果は出なくなってしまう。やはり運動ですから、血管が拡張します。お風呂の中では、血液が流れるスピードを助長させる。
例えばお酒を飲んでお風呂に入るのは、心筋梗塞を誘発したりとか、脳血管疾患を誘発したりするので絶対にお風呂の中で運動をしないでください〟と的確に答えた。
(文責・編集部)
※第2部の元日本女子大学教授・飯塚美和子氏による『低たんぱくの予防として―たんぱく質の上手な摂り方と栄養バランスの取れた食事の提案―』と題した講演は、次回掲載いたします。