『接骨院の診察室』 第3回
くも膜下出血を起こしたAさんのその後。Aさんから教えていただいた大切な事。

=前回までのあらすじ=
2022年1月14日午前11時35分。
「くも膜下出血疑い」で僕が救急車要請。
Aさんの搬入が終わったところに遅れてやってきた、トリアージの医師。

救急車の中で20~30分診察をした後、
「くも膜下出血ではありません。」と明確に否定。
「脳神経外科以外の診療科に搬送させます。」と言い残して帰ってしまった。

ほどなく救急車は出発。
混乱した僕は…しかしながら何一つすることはできず。
ただ立ちつくすのみだった。
夜にお連れ合い様に電話するも…繋がらず。

翌朝。
お連れ合い様が来院され、昨日のその後を報告してくださった。
救急搬送された病院で、やはり「くも膜下出血」と診断されたと。

緊急手術となったが、助かるかどうかはまだまったくわからないと。
Aさんが助かるかどうか、「この2週間が山場」と言われたと。

シリーズ最終回となる第三回の今回は、僕の思いのたけを書かせていただきます。

僕は接骨院ですから、医療ピラミッドの「最底辺」に位置する存在です。

医師にモノ申すことができる立場ではありません。
しかしながら今回だけは。
日本の一市民として、正直に発言させていただきます。

僕があのトリアージの医師に感じた「悪い予感」は、残念ながら的中していました。あの医師は、僕の話を聞きながら「馬鹿にした表情」を見せました。
人の話をちゃんと聞こうという姿勢を持ち合わせていませんでした。

診察はその90%が「問診で決まると言われています。
そのくらい、患者さんからの情報は貴重です。

それは、たかが接骨院からの情報だろうが、ご家族からの情報だろうが、
同じことです。

もちろんその情報には、バイアスがかかっているかもしれません。
間違えた医学知識がベースになっているかもしれません。

しかしだからと言って、「無用な情報」ではないのです。

問診は「情報収集」です。
しかし、言葉通りに受け入れることが情報収集なのではありません。

「その言葉の奥にある真実」「患者さん本人や情報提供者というフィルターを通る手前にあった真実」を、その言葉からつかみ取ることが大切なのです。

なぜこの人はこう言うのか。その言葉を発したこの人はどんな”事実”を見たのか。それを推測するのです。「映像化」して。「あらゆる可能性」を想定しながら。

…この、「問診の基本中の基本」が、この医師には備わっていませんでした。しかも、「red flag」を簡単に見逃しました。

…この医師は「医療者が決してやってはならないミス」を犯しました。
それは「思い込み」です。

「negative predict value」と「positive predict value」という言葉があります。私たち医療者にはこの2つが常に付いて回ります。

すなわち、
①「ある病気が患者さんの中に存在するかも知れない」と思って、「実は存在しなかった場合」と、
➁「ある病気が患者さんの中に存在しない」と思って、「実は存在した場合」。

この2つのうち、①もあまり度を過ぎるとよろしくはありません
何でもかんでも「存在するかも知れない」としていたら。

貴重な医療資源を無駄遣いすることになりますし、患者さんの時間も経済も無駄にしてしまいます。

この意味で「診察の精度」を上げていくことは、もちろん重要です。

しかし最もやってはならないこと、あってはならないことは、②です。

「くも膜下出血はない」として、実は「くも膜下出血があった」では洒落にならないのです。

患者さんにとっては、それが重大疾患であればあるほど、その医療者が下した判断がご本人に及ぼす影響は深刻です。
この医師は、そこが根本的にわかっていないのだと思います。

誰がどう見たって、Aさんが僕に伝えた「1月7日の頭痛の起こり方」は、
「決して帰してはならない患者」のそれだからです。
要するに、red flagです。

あらゆる方法で検査をして、くも膜下出血がないことが立証されるまで、「くも膜下出血ではありません」などと安易に結論を出して良いはずはないのです。

…ここまでの文章は、Aさんがくも膜下出血を起こした2日後に、僕が書き残したメモから引用しました。

その後僕は1週間、トラウマと言うのでしょうか、Aさんが目の前でひっくり返った映像が瞼の裏から離れず、なかなか寝付けず。

寝たら寝たで、変な夢ばかり見て目が覚めるという日々を送っていました。
「どうか、神様…。Aさんが助かりますように。」

それだけを祈っていました。
Aさんが、命が助かるかどうか本当にわからない、瀬戸際にまだいらしたからです。

1週間経過したところで、僕は次のようなメモを書きました。

『それにしても。
あのトリアージに来たドクター。
なぜ僕のところにもう一度あの時の状況を聞きに来ないのでしょうか。

僕が医者だったら、絶対に聞きに行きます。
くも膜下出血を起こしたばかりの患者さんを診て、
くも膜下出血ではない」というとんでもない誤診を自分が下したというのに。

二度とその間違いを犯さないために。
一部始終を見た唯一の人間で、しかも発作直前に問診をして、その1週間前に起きた「前兆の頭痛」についてもAさんから唯一直接聞いている僕に、なぜその時のことを詳しく聞きに来ないのでしょうか。

自分が「くも膜下出血ではない」と診断した患者さんと同じ患者さんを僕が診て。なぜ僕の方は「くも膜下出血だ」と考えたのか。

僕がどの事実に注目し、それをどう評価し、どういう医学的根拠に基づいてそう考えたのか。

どうして、それを聞きに来ないのでしょうか。
この医師は必ずまた同じ誤診をします。

いずれ開業したら、同じような患者さんを、風邪とか言って痛み止めだけ出して帰します。
そしてその数日後か数カ月後かは分かりませんが、どこか別の所で更なる大破裂を起こして、患者さんが亡くなっても。

気付かないまま、一生診療を続けていくでしょう。
あるいは何かのことでそれを知ることになっても、果たして振り返りや反省をするでしょうか。

自分が誤診した経緯を振り返り、反省をして、情報を集め。
二度と同じことをしないように、自分の診察法と考え方を修正し組み立て直す。

この当たり前にやらなくてはならないことを、1週間経ってもこの医師はまだしない。
とんでもないと思います。

本来なら何らかの「強制力」を持って、
こういう重大な誤診をした医師には勉強のし直しをさせる

…それが必要ではないかとさえ、思います。
Aさんがもし助からなかったら。
僕はこの医師を許しません。

彼が救急車の中で無駄に浪費した20〜30分がなかったら、
もしかしたら結果が変わっていたかも知れないのですから。

病歴(症状の経過)を聞いただけで、誰がどう見てもくも膜下出血の可能性が限りなく高い救急患者さんに、ちんたらした診察なんか必要じゃありません

一刻も早く手術が出来る脳神経外科医の元へ搬送して、検査する、
それだけです、必要なのは。

そしてあの時、119番と僕との間でその段取りは、
最短時間で既に整っていたのです。
…何とかしなくてはいけないと思います。

当然、末端の我々のような接骨院も含めて、医療に関わる仕事をする人間たちが、重大な誤診を繰り返さないように「生涯にわたって教育する仕組み」を、何としても作らないといけないと思います。

医療訴訟という手段もありはしますが。
日本市民のほとんどは、誤診されても黙っています。

僕は誤診した前医を訴えた患者さんを、見たことがありません。
患者さん頼みでは、繰り返される重大な誤診を防ぐことは出来ません。

「国家的な仕組み」の構築が必要だと思います。
今回のような重大疾患の手術が行われたケースに限ってでもいいから、
「前医にその情報が伝えられるような仕組み」
少なくとも、それだけでも良いから、構築していただきたいです。』

…その後。
Aさんは本当にありがたい事に、回復されていきました。

お連れ合い様が接骨院に来院されて、逐一報告してくださいました。
今日は言葉をしゃべった。今日は車椅子に乗った。ご飯を食べられた。歩き始めた…。

山場と言われた2週間がたったところで、僕はもう一度今回のことを振り返り、次のようなメモを残しました。

『あのトリアージのドクターは僕に、「くも膜下出血ではない」と言い切って、「脳神経外科ではない診療科に搬送する」と言った。

その指示通りに、もし内科や精神科が対応していたら。
Aさんは救急車の中で意識も戻って受け答えもしていたのだから。

「てんかん発作ですね」ということで脳波検査の予約でも取られて帰されていたら。
その後サードアタックでAさんは即死していたかも知れない…。

①発作を起こす僅か3分前に。僕がAさんから、くも膜下出血のマイナーリークを強く疑わせる「1週間前の突発ピーク型頭痛」についての情報を運よく聴取できていたこと。

➁その情報が119番から病院側に伝わっていたこと。

➂そして病院側の判断で、トリアージのドクターからの要請に反して、初めから脳神経外科医が待機して、搬送されたAさんをすぐに診察してくれ、僕のカルテも読んでくれたこと。

この3つのうちどれか1つでも欠けていたら。
想像するだけで怖いです。

だってAさんは、「頭が痛い!」と口に出す間もなく、突然ひっくり返って意識を失ったのですから。
そして20分後には救急車の中で意識も戻り、普通に喋り始めたというのですから。

僕が3分前に聴取した情報がなければ、てんかん発作の可能性が高いと考えておかしくはないと、言えるのですから。

怖いです。想像するだけで。
まだAさんは入院中ですので、退院されるまでは心配ですが、ようやく、あの時の映像が頭から離れず眠れないということはなくなってきました。

早く元気になったAさんにまた会いたいです。
ご回復を心からお祈りしています。

そして、2月28日。発症1か月半後。
僕は次のようなメモを書いています。

『Aさんが今接骨院に歩いて来てくれた😭2日前に退院したって…。
前と変わらぬ笑顔、変わらぬ喋り方、変わらぬ明るさ😭
神さま有り難うございます😭本当に、有り難うございます😭🙏🙇‍♂️』

この原稿を書いている現在、Aさんは発症から5か月を無事に過ごされました。もう、くも膜下出血を起こす前と、神経系統には何も変わりがないところまで回復されました。

入院中の筋力低下はまだ回復途中ではありますが、どんどん一人で歩かれています。今までと同じく、冗談を言い、周りの人たちに笑顔をふりまかれています。

さて。
Aさんのこのシリーズは今回で終了です。

いろいろ私見を述べさせていただきましたが…
皆様はどのようにお考えになられたでしょうか。

私たちの命と健康を守る「医療」
どのように改善していくのが良いのか。
今後もご一緒に考えていけたら嬉しく思います。

次回からも、私自身の誤診やヒヤリハット事例も含めて、大切な情報をお伝えしていけたらと思います。

頑張りますので、よろしくお願いいたします!

①2022年1月15日(発症翌日)のカルテ

(お連れ合い様からお伺いした病院での診断と治療内容、備忘録として発症時の振り返りを記しています。)

②脳脊髄液の排出不良による頭蓋内圧亢進を防止するために、背部にインプラントされたシャントシステムの患者カード

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