「関節の摩擦と潤滑」
さて、関節が正常に動くための最初の条件は生理潤滑の達成です、つまり摩擦を減じて関節寿命を延ばし運動エネルギーの節約をすることが必要になります。
摩擦とは物体の動きに逆らうように働く力のことです。例えば椅子から立ち上がろうと膝を伸展しようとするとき、伸展の動きに抗う向きに摩擦力が働きます、つまり膝を伸ばさせまいとする方向に力が働くわけです。
摩擦力には、静止摩擦力と、動摩擦力が有ります。
膝を伸展させようと力を入れて動き始めるときに最大静止摩擦力が働きそして、動き出せば動摩擦力に変わります。
動摩擦力係数<静止摩擦係数の関係がありますので動き出すと摩擦力は小さくなります。
そして動摩擦力はF=μN
F :動摩擦力
μ :動摩擦係数
N :垂直抗力
の式で表します。
この時に大事なことは摩擦力が垂直抗力つまり荷重の反力に比例するという事です。
潤滑が成立していなければ体重をかけて立ち上がろうとすると、体重をかければかけるほど摩擦力がまし、膝の動きが重くなり抵抗を感じることになります。
でも、実際に立ち上がる際にそのような抵抗を感じることは有りませんので、関節内には潤滑が存在していることを証明していますね。
もし潤滑が無ければ、動くことで大きな摩擦抵抗を生み摩擦熱が発生します、膝の屈伸をするだけで莫大な熱が発生し膝のたんぱく質を熱変性させて変形させることになります。
また、一般に言われるように、関節がゴシゴシと擦れ合い他方を、やすりの様に削るアブレシブ摩耗はかなり大きな荒さ突起が存在し、2面の硬度差が3倍以上無いと発生しないために実際に人体の軟骨対軟骨という組み合わせでは通常おこりません。
ちなみに爪はモース硬度で2.5、骨は4~5歯のエナメル質で7、ダイヤモンドで10です。
では、潤滑といってもどの程度の潤滑が必要なのでしょうか?
流体の膜厚が薄い順から、境界潤滑、近境界潤滑、流体潤滑の3種がありますが、境界潤滑の摩擦係数が0.05~0.2、近境界潤滑で0.01以下と言われています。
しかし関節内部の摩擦係数は0.001程度であり、境界潤滑、近境界潤滑の摩擦係数と差がありすぎ関節の内部は静止時、起動時、運動時を問わず流体潤滑になっていると考えるのが自然でしょう。
もし、境界潤滑が運動のどこかに存在しているようであれば、摩擦抵抗が大きく関節面の摩耗や強力な熱が発生することになりますね。
そして、関節の流体潤滑が成り立つためには、生理的重力下での加圧機構と潤滑場の平行が条件になります。
潤滑場が平行でなくては面が接触してしまい流体形成が出来ませんし、圧力がかからなくては内部の流体の圧力が高まらずに流体潤滑が達成できません。
膝の痛みのある方に、椅子から立ち上がる際に手のひらで膝をしっかり押さえてゆっくり体重をかけて立ち上がるように指導すると椅子の座面に手をついて立ち上がるよりはるかに楽に立ち上がれます。
これは加圧により、膝の内部の流体圧力が高まり流体潤滑が効率よく働いたためと考えられます。
関節稼働の第一条件は流体潤滑の達成であるといえます。
これは関節整復をするときも同様です、加圧による流体潤滑が達成されないと関節は動きません。
特に仙腸関節のような特殊な関節は、加圧機構による内部圧力流体の形成が無ければ動くことはできません。
簡単な実験の映像をあげていますので、ごらんください。
https://www.facebook.com/watch/?v=1104295623637021
次回は関節の生理的な運動軸について述べたいと思います。
参考文献 構造医学の原理 エンタプライズ者 吉田 勧持著