第1回トレーナーという仕事
(初級編)
からだサイエンスnet読者のみなさん。こんにちは。
ネット版での連載初回の今回は、紙媒体の時にも話題にした内容と被る部分もあるのですが、「アスレティックトレーナー」と「トレーナー」の違いについて調査されている興味深い文献がありましたので、少しご紹介させて頂きます。
文献に関しましては、図―1にある『J-STAGE』というサイトで読むことができます。ぜひ覗いてみて下さい。
今回、ご紹介させていただく文献は、日本アスレティックトレーニング学会誌、第7巻、第1号に掲載されている『「アスレティックトレーナー」と「トレーナー」は同じなのか?実態調査を用いた属性と業務比較』というものです。
詳細については当該文献を実際にお読み頂きたいのですが、2018年に日本スポーツ協会によって行われたアンケート調査のデータを基に書かれたものです。
所々つまんで見てみますと、保有資格に関する項目の部分で、医療系資格において最も多い資格は「きゅう師」であるということが意外でした。筆者は現場で最も多く出会うトレーナーは鍼灸あマ指を所持している方です。調査結果では「はり師」が最も多いのかと思っておりました。
表―1 アスレティックトレーナーの12の業務 | ||
・予防 | ・アスレティックリハビリテーション | ・安全管理 |
・救急処置 | ・コンディショニング | ・健康管理 |
・治療 | ・パフォーマンス向上 | ・教育 |
・リハビリテーション | ・測定と評価 | ・コミュニケーション |
表―2 トレーナーよりもアスレティックトレーナーの方が実施率の高かった業務 | ||
・予防 | ・治療 | ・リハビリテーション |
・アスレティックリハビリテーション | ・コンディショニング | ・安全管理 |
・コミュニケーション |
また、アスレティックトレーナーの業務は表―1に示すような12業務があるのですが、その中でも表―2の業務については「トレーナー」よりも「アスレティックトレーナー」の方が実施率が高かったということです。トレーナーとして現場に立つ場合には、特に足らないと言われている部分にも注力する必要性がありそうですね。
さて、今回の「トレーナーという仕事」の話題ですが、選手との接し方について筆者の考え方を述べさせていただこうと思っております。
色々な契約形態などがあるとは思いますが、基本的に選手とトレーナーは“対等”であるべきだと考えています。これは「ファン」として選手に接してはならないということです。憧れのキラキラした眼差しで選手を見ていたら、もうこちらの指示は聞いてもらえなくなるでしょう。また、選手とやたら2ショット写真を撮りたがるのもどうかと思います。治療院の宣材として撮影したいのであれば、理由を説明して撮らせてもらえば良いと思いますが、写真を撮ってやたらSNSなどに上げて仲良しアピールをしているのは、傍から見ても何をやっているんだか、と思ってしまいます。
トップアスリートは選ばれた人だと筆者は考えます。マンガのように努力を積めばトップに立てるというものではありません。努力をするのは当然ですが、上に行くためには才能と経済力なども必要かと思います。それに対して、トレーナーは目指したいと思えば、ある程度は夢を果たせるのではないかと考えています。一人前になるためには経済的なバックアップや人との出会いも必要ですが、アスリートほどハードルは高くありません。
トレーナーとして担当する競技種目が、自身が行っていたスポーツ種目であると選手が眩しく見えてしまうこともあるかもしれません。ですが、自分の仕事を遂行するために、選手と対等に話ができるよう、憧れの気持ちは心の奥にしまっておくべきだと思います。
筆者自身も競技レベルは都道府県大会レベルであったのに、トレーナーになってからは世界選手権に出場している選手に対して、「あれをやった方が良い」「そんなことしてたらだめだ」などと偉そうに意見をしたりしておりました。
また、若い頃に選手とトレーニングする際に自身が気を付けていたことは、基礎的なトレーニングは選手と一緒にトレーニングパートナーのような形で行ったりもしましたが、選手の専門種目については一緒にはやりませんでした。当然、選手と比べようもないほど専門種目の動きは劣っているでしょう。選手と同じようにできるのであればトレーナーなどせずに現役で選手をやっています(笑)。選手も頭では「彼は選手ではなくトレーナーだ」ということは理解していても、明らかに格下だと分かるとトレーニングについてなかなか言うことを聞いてもらえなくなります。「だって、お前できてないじゃん」と言われてしまうことも。選手とトレーナーとの関係性にもよりますが。
選手と信頼し合える人間関係が築けていないと、良い結果を残すことは難しいと思います。冷静に客観的な目線で付き合い方を見てみることも必要ではないでしょうか。
文献
泉秀幸,笹木正悟,細川由梨:「アスレティックトレーナー」と「トレーナー」は同じなのか?実態調査を用いた属性と業務比較,日本アスレティックトレーニング学会誌,7(1):127-134,2021.(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsatj/7/1/7_127/_article/-char/ja)
(最終閲覧日2022年3月24日)