第4回トレーナーという仕事(初級編)

 予想以上に早かった梅雨明けと、そこからの災害級の猛暑。そして気づけば新型コロナウイルスの感染者数の増大。また活動制限がかかってしまうのでは?と身構えてしまいます。

 さて、今回はスポーツ現場での活動にあたり必要な『EAP』についてお話させて頂こうと思います。前回は緊急事態に対する物品の準備などの話題でしたが、今回はいわばソフト面の準備のお話になります。

スポーツ現場で用いられる『EAP』とは Emergency Action Planの頭文字を繋げたもので、緊急時対応計画をさします。

スポーツには、練習のたびに誰かしらケガ人が生じるものから、ほとんどケガ人が発生しないものまで、いろいろな競技種目がありますが、いざケガ人が出た時にその場しのぎで対応しているようではミスや連絡漏れなども生じてしまいます。

そこで登場するのが『EAP』となります。

写真-1 EAPの一例

写真-1に示したのは、筆者の関わっているチームで使用しているEAPの一部抜粋です。

ケガ人が発生しやすい競技種目ですので、生命に関わらない部分のEAPも作成し、知識は持っていても経験の浅い学生トレーナーが対応する際にも、頭が真っ白にならないで済むようにフローチャートを作成しておきます。

ここに記しておくことは、①役割分担②機材のありか③搬送経路④連絡先などです。

①役割分担 
誰が倒れた選手のところに駆け寄って対応するのか。
誰が資機材(タンカ、ネックカラー、AEDなど)を持ってくるのか。
誰が救急要請を行うのか。
誰が救急車の誘導を行うのか。
誰が病院へ付き添うのか。

その場で考えるのではなく事前に決めておきます。

➁機材のありか
当チームでは練習のたびにAED以外の機材はフィールド横のトレーナーステーションにまとめて出してあるので(web版5号を参照)記入の必要はありませんが。

③搬送経路
救急車を要請した際のルートを明示しておきます。

④連絡先
選手の個人情報だけではなく、救急要請をせずに自分たちで病院へ連れていくこともありますので、近隣の各診療科ごとのリスト(土日や夜間に受け入れしてくれる病院のリストを連絡先だけではなく地図付きで用意しておくと便利)、救急車を呼ぶ場合には大学の警備室にも連絡が必要なのでその番号などもまとめておきます。

⑤その他
ひと昔前は、保険証のコピーに印鑑を押したものでも対応してくれましたが、今はコピーでは受け付けてもらえず、保険証の現物が無い場合には保証金を預けて後日清算するという形になりますので、そのお金も必要です。大人が一緒に行けない場合もありますのでタクシー代・診察料・保証金の立て替え用に数万円を準備しておきます。

救急要請する際には、自分の携帯番号も出てこなくなりますので、グラウンドの住所や自身の携帯番号、話す内容の台本なども作成しておきます。

写真-2 インカム

 EAPにおいて役割分担などは決めておきますが、ポジション別の練習など、広いグラウンドで散った形での練習中に何か起こると把握しきれず動きが後手に回ってしまいます。そこで、筆者はグラウンドで動く際にはインカムを利用しています。トレーナー全員と、場合によってはマネージャーにもインカムを付けてもらい、情報を全体で共有しています。

 アメリカンフットボールの場合は良いのですが、これが中学校や高等学校のラグビーの場合ですと練習や、練習試合の際にはインカムを活用できますが、公式試合の場合には使用を禁じられています。大学や社会人では使用できるのですが、ケガが生じる危険性のある競技種目なのでなぜ使えないのかと食い下がったら「不公平だから」と言われたこともあります。また、インカムでトレーナーの口から作戦を伝えられても困るとも言われたこともあります。そんなことをすると思われているのが心外です。

 EAPを作成したらそれで終わりではなく、実際に運用できるのかシュミレーションを行う必要があります。例えば、タンカで選手を運ぶ予定になっていたのに人を乗せた状態だと通路の角が曲がれない、エレベーターに乗せられない、階段の踊り場を通過できない。などということも実際に起こります。人を乗せていないタンカではなく、実際に傷病者役の人を乗せた状態で搬送が行えるのか試しておかないと、本番ではその経路は使えません。

 また、タンカへの乗せ方、ネックカラーの付け方、防具の外し方など一般の救急法の講習会で学ぶ方法と少し異なるので、実践練習を繰り返して技術を身に付けておきます。

写真-3 シュミレーションの準備中

 写真-3はこれからシュミレーションが始まるところです。実際にやっている風景は色々なところに出ているので、こちらではあえて準備中の風景を載せてみました。

 EAPを作成している中で、不足している機材や情報などに気づくこともあります。とりあえず1度たたき台として作成してみて、スタッフ同士で意見交換をされると良いと思います。

『日本AED財団』のホームページでは「EAP作成ガイドライン」というものが無料でダウンロードすることもできます。具体的にどうやって作成したらよいか分からないが、文献を調べてまでやるのはちょっと・・・。と感じられている方は是非見てみて下さい。

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